2017年10月9日月曜日

「ヤンテの掟」でハードルを下げて幸福感を得る

To Be Average Is to Be Happy: A Lesson from the Danes:

 今回の元記事はLindsay Dupuis氏によるもので、デンマークに学ぶ「些細なことでも幸せを感じる方法」。2017年の世界幸福度報告(World Happiness Report)では、スカンジナビア半島の国々が上位を独占し、ノルウェーが首位、デンマークが2位、スウェーデンが10位に入っています。Dupuis氏の記事は、2位にランクインしたデンマークで幸福度が高いのは、「ヤンテの掟(Jante Law)」が関係しているのではないかというのです。

 ヤンテの掟(ジャンテの盾とも言うそうです)というのは次の(1)〜(10)の10ケ条で、作家のアクセル・サンデムーセ氏が1933年に書いた小説「A Fugitive Crosses His Tracks」の中で架空の村「ヤンテ」の法律として描かれたものです。
(1)自分を一角の人物だと思ってはならない
(2)自分のことを、私たちよりも優れていると思い上がるな
(3)自分のことを、私たちよりも頭がよいと思ってはならない
(4)自分のことを、私たちと同じくらい価値があると想像し、自惚れに浸ってはならない
(5)自分のことを、私たちよりも多くを知っていると思ってはならない
(6)自分のことを、私たちよりも重要であると思ってはならない
(7)自分のことを、大物だと思ってはならない
(8)私たちの事を笑ってはならない
(9)私たちの誰かが自分のことを気にかけていると思ってはならない
(10)私たちに何かしら教えることができると思ってはならない

 この10ケ条を読んで、皆さんはどう感じられますか。自分は最初、たとえ成功しても思い上がってはならないと自分で自分を戒める内容だと思ったのです。謙虚さを美徳とする日本人にとって、たとえ成功しても「いやいや自分なんかまだまだです」「これからも皆様のご指導ご鞭撻をお願いします」という態度、あるいは「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の精神が重要ですよというような。しかし、そう思ってこれらの主語に「私」を補うと、ほかに「私たち」も出てきて文章がヘンです。実は、このヤンテの掟が言わんとしているのは自分で自分を戒めるのではなく、成功できない人たちが成功した人に対し「お前たち、思い上がるなよ」と戒めている内容なのです。補うべき主語は「私」ではなく「お前」。「『私は』自分を大物だと思ってはならない」ではなく、「『お前は』自分を大物だと思ってはならない」という「出る杭は打たれる」を示したルールなのです。

 さて「ヤンテの掟」の正しい解釈がわかった上で、Dupuis氏の元記事を読んでみると、出る杭は打たれる社会で「お前なんか大したことがない」「お前は平均以下だ」と言われ続けると、人は「せめて平均に到達したい」と考えるようになる。そして、ごく平均的な生活を手にしただけでも十分に満足できる、ということになります。

 満足を感じるか不満を感じるか(幸せを感じるか不幸を感じるか)というのは、期待値と現実との「相対的な関係」によるのです。つまり、現実が期待値を上回ると人は満足感や幸福感を感じ、現実が期待値を下回ると不満や不幸を感じるわけです。もちろん全ての幸福論をこの相対論だけで説明できるほど幸福は単純ではありませんが、Dupuis氏の言われる相対論で説明できる部分もかなりあると思います。そうすると、デンマークの文化に根付いているヤンテの掟は、期待値を下げる(ハードルを下げる)効果があり、現実が期待値を上回る可能性が高くなる。すなわち幸福を感じやすくなるということになります。

 私たちは(日本人はと言ってもいいかもしれませんが)、「高い目標を持つべき」とか「理想は高く」などと教えられて育ちます。その高い目標に向かって努力することで、才能や能力を伸ばそうという考え方です。目標や理想が低いと、あまり努力しなくても達成できるので、せっかく潜在的な才能を秘めていても能力を伸ばしきれない。したがって「目標は高く」設定し、それに向かってあらん限りに努力をする。しかし、この考え方ではデンマークのように現実が期待値(=目標値)を上回る可能性はほとんどありません。そりゃそうですよね。私たちはちょっとやそっとじゃ実現できない高い目標を設定させられるわけですから、いくら努力してその目標に近づいても上回ることはほとんど不可能です。そう、日本人的な「高い目標を設定して努力する」考え方は、「成長」を基準に考えると才能を限界まで伸ばそうという素晴らしい考え方ではありますが、評価方法が「目標に対して現実がどれだけ不足しているか」という「引き算」になってしまうので、満足感・幸福の実感という面では弊害があるのです。期待値と現実との相対関係で幸福感が決まる「相対論」にもとづくと、私たちは満足感や幸福感を感じづらい、いやむしろ不満や不幸を感じやすいということになります。

 高度成長期、ハードルを上げてそれに向かって努力するという考え方で急成長を遂げてきた日本ですが、この考え方は人々の「幸福感」を著しく下げてしまいました。その結果、幸福度ランキングでは日本は51位。全155ヶ国の中では上位と言えなくもありませんが、アメリカ(14位)・ドイツ(16位)・イギリス(19位)・シンガポール(26位)・フランス(31位)・タイ(32位)・台湾(33位)など、先進国・アジア諸国に比べてもやや低い気もします。日本は、国を挙げて国力を上げる高度成長期が終わってから随分と時間も経っていますし、当時のように努力すればするほど目に見えた成長ができた時代も終わっています。そろそろ価値観の変換というか、ハードルを下げて、満足感や幸福感を感じる考え方に移行して行ってもいいのかもしれません。

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