2018年10月11日木曜日

逆フィルターに見るイノベーションの定石

Free-standing liquid membranes as unusual particle separators

 今回は面白い技術が開発されたというので、ご紹介したいと思います。それは特別なフィルターなのですが、常識とは全く逆のフィルターなのです。元記事は、ペンシルベニア州立大学の研究者チームの論文記事で、Science Advancesに掲載されたものです。

 フィルターと言っても人によってイメージするものは異なりますが、篩(ふるい)とかろ紙・コーヒーフィルター、あるいは偏光フィルターやハイパスフィルターのようなものを思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、ここで言っているフィルターは最も原始的なもの、つまり篩(ふるい)やろ紙のように、砂の中から石を取り除いたり液体の中から個体を取り除いたりする、あの「フィルター」です。

 ペンシルベニア州立大学の研究者チームが開発したフィルターのどの辺が「全く逆」なのかというと、普通は表面に開けられた小さな隙間の大きさを変えることで、小さなものを通して大きなものを通さないところ、全く逆、つまり大きなものを通して小さなものを通さないというところなのです。技術的な仕組みは元記事やこの動画(↓)を見ていただくといいのですが、簡単に言うと、液体の「表面張力」を利用することで、一定の大きさと運動エネルギーを持つ物体だけを通過させるという仕組みなのです。


 運動エネルギーは、質量を持つ物体が動いている時に持つエネルギーです。学生時代の物理の授業を思い出せば、ある高さから物体を落とした時、位置エネルギーが運動エネルギーに変わることで物体は速度を持つという関係にあった、あの運動エネルギーです。式で書けば、
ですので、重いものほどそして速いものほど運動エネルギーが大きく、この特別なフィルターの表面張力に打ち勝って通過できるようになるというわけです。面白いのは、物体が通過した後は、液体の高い表面張力によって穴が自動的に閉じられるのです。

 この全く逆の機能を持つフィルターの応用を考えると、面白いですよね。例えばトイレに使えば固形の排泄物は通すけど臭いは通さない防臭フィルターとか、人は出入りできるのにハエや蚊は通過できないゲートとか、外科手術のときに開口部を覆う応用とか。

 研究者らによれば、今回の発想の元は、細胞が細菌やウイルスなど一定の大きさを持つ物体だけを細胞内へと取り込む食作用だったのだそうです。あえて常識と全く逆の発想をする「逆張り」と、異なる分野をヒントに着装する「連想(アナロジー)」。いずれもイノベーションの定石ですが、これこそ言うは易しの典型ですね。

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